──絶体絶命、なんて私の
辞書に必要のない言葉だ。
暗闇、雨空。
雨足が途絶えた頃外に出た
筈なのに、もう土砂降りの
雨は、休むことなく私の体
に叩きつけられていた。
──土臭い。寒い。
このまま放置され続けただ
けでも私──茉野仁花──
はこの世からおさらばだろ
う。
最も、そんな長時間仁花は
此処に居られない。
何故ならば、仁花は今、線
路の上に居るからだ。
しかし、仁花は自殺願望を
叶えるがためにこの場に居
るのではなく、
左手と右手に手錠をかけら
れ、しかもその手錠は線路
にくくってあった。
別に得てしてそんな趣味と
かではなくて、とある人物
に、先程、この変態チック
なシチュエーションを施さ
れたのだ。
しかも今のポーズはアレだ
。
説明するならば、片膝つい
て“御意、ご主人様”若し
くは“僕と結婚してくださ
い、姫”のポーズだ。
しかし今の仁花にそんなご
主人様も姫もあったもので
はない。