そのときのわたしは

余裕なんてあるはずもなく



自分の恋人が

他の人を愛おしそうに見つめるのを

目撃してしまった衝撃も悲しみも



恋人が好きだと言ってくれるのを

信じることができなかった

自分への苛立ちも辛さも



わたしは

わかろうともしなかった



谷君がどれだけ悲しみ

悩み

ひとりではいられなかった心細さを抱えて

逃げてしまったことを

どれほど悔やんだか



そんなことを

考える余裕はなかった



ただわたしは

自分の悲しみに閉じこもって

自分を守ることで

精一杯だった