しかし今の時点では、とても父の期待に応えられそうになかった。

『うーん…どうしよう』

ぼんやり視線を飛ばしたその時、佐伯由美と目があった。

迂闊だった。

達郎は焦りを覚えたが、由美は達郎に向けて笑顔を作った。

「?」

達郎は辺りを見回したが、自分以外の生徒はいなかった。

再び由美に目をやると、彼女は笑顔のままうなずいた。

達郎はその笑顔の意味がわからなかった。

4人組は話に夢中で、達郎や由美には気付いていない。

達郎はなんとなく居心地が悪くなってベンチから立ち上がった。

立ち去る直前、もう一度由美に目をやった。

由美はもう、達郎の方を見ていなかった。

4人が談笑する様子を、ただただ穏やかな笑顔で眺めていた。

あの笑顔と黙礼は一体なんだったのか。

達郎は頭をかきながら、その場を後にした。