テレビで論客として振る舞う母親とは違い、由美からはたおやかな感じを受ける。

彼女は天堂の恋人ということだった。

なるほど、音楽家の天堂とは似合いのカップルに見えた。

さてどうしようかと達郎は心の中でつぶやいた。

途方に暮れていると言っても良かった。

この一週間、4人の行動に目を配っているもののそれは捜査と呼べるようなものではない。

兄から頼まれたことを調べる糸口はまったくつかめていなかった。

できる範囲で構わないとは言われたが、引き受けた以上、成果なしというのはバツが悪い。

何より父が自分のことを買っているというのが引っ掛かった。

達郎は父とそういう話をしたことがなかった。

普通の親子程度の話はするものの、刑事の才能があるなどと言われたことはない。

父は現在出張で家を空けている。

よって真意を訊くことはできない。

だが、父が自分を買ってくれているという事実がある以上、期待には応えたかった。