薬品の匂いに混じって、見舞いの花のきつすぎる匂いが、俺の鼻腔をくすぐる。いつもならすぐ不機嫌になって病室から出て行ってしまうハズの俺は、病室から出るのもおっくうで、そのまま窓の外を眺め続ける。

・・・明日になれば、この病院にも来なくてよくなる・・・

 盲腸で入院していた母親は、明日退院する。

「啓、そこに掛けてある赤い上着とって。」

 母親に言われて、渋々上着を取る。俺は深見沢 啓。宮城高校の一年生。

「病人があちこちうろついて良いのかよ。」

「まあね。どうせ明日で退院だし。」

 そう言って、わざわざ迎えに来た息子を放って病室を出て行ってしまう。暇な俺は、もう一度、窓の外を眺める。

 中庭には、数組のカップルがいて、包帯をさすったり、本を読んだり、楽しそうに喋ったりしている。

・・・あいつら、幸せなんだろーか・・・・?

 別に羨ましくなんかない。俺ももう高校生だから、人並みの恋愛経験だってある。でも、本やドラマであるような、『切ない』とか、『〇〇と居れて幸せ』とか言う感情は持った事が無い。だから、カップルを見ていつも浮かぶのは、『幸せだろうか?』という疑問符だ。

 窓の外を眺めるのにも飽きて、病室の方を向きなおすとそこには、驚くほど丁寧に散らかされた光景が広がっていた。

「ったく・・・どうやったらこんなに散らかせるんだよ・・・。」