「せ、節、いきなり何を」


 しどろもどろになりながらも、律は問い返す。


「男の人と二人乗りしてたでしょ?」

「あ、自転車の…」

「うん。声かけようかと思ったけど、凄く楽しそうだったから」

「ちょ、律! いつから?!」

「夏休み後半から…」

「誰と?!」

「さ、相模…君と」


 音は衝撃を受け、そのまま放心状態に陥る。

 母はフォークを置き、唇を拭く。


「以前、病院でお会いした方ね」


 律と目を合わせず、いつもの冷めた口調で言う。

 律は思わず背筋を正す。


「は、はい」

「別れなさい」

「え?」

「貴女の交際相手は私が決めます」

「お母様?!」

「文句でも?」


 母の口調は、有無を言わせない。

 律は一瞬怯んだが、退くわけにはいかないと母に意見する。


「私は本気で相模と──」

「お黙りなさい!」


 思わぬ母の叱咤に律は怯んだ。


「何が本気ですか。まだ15だというのに」

「年齢なんて関係ありません!」

「なっ」

「何故、年齢で本気ではないと判断するんですか?!」

「気持ちが何だと言うの! 気持ちさえあれば何でも済ませる事が出来るの?!……もう少し世間に目を向けなさい。とんだ恥知らずだわ」


 溜め息を吐き、母は額に手を添えた。

 律は認めてもらえない悲しさと、否定された悔しさで苛立った。


「行って来ます!」


 椅子の下に置いてあったカバンを手に取り、玄関へ向かった。


(いくら何でも、あんな言い方ってない!)


 勢い良くドアを開けると同時に、ゴンッという鈍い音がした。

 嫌な予感がし、隙間から除き見ると、額を押さえて座り込む空の姿があった。


「ご、ごめん! 大丈夫?!」


 ──やばい、思い切り開けちゃった。


「真空…ッ、テメェ俺に何の恨みが」


 恨めしそうな空の声に、律はより一層慌て出す。