これは、付き合い始めたばかりの頃に起こった、不可思議で儚い物語。
──や……嫌…。
何か聞こえる。
──あ…い……ど…して…。
女の人が、泣いてる?
──私……したって…の。
いた!
髪が長くて、着物姿? ううん、十二単だ。
──蒼!!
ハッと、律は目を覚ました。
「はぁ、はぁ…」
汗だくでパジャマが濡れていて気持ち悪い。
「何、今の夢」
今しがた見た夢を思い出す。
真っ暗な闇の中で、女性の泣き声が聞こえた。誘われるように近寄ると、十二単を身に纏った女性が泣いていた。
顔は見れなかったが、少し自分の声に似ていた気がする。
「時代劇の見すぎかな」
実は近頃、大奥にはまっていたりいなかったり。
久々に四人揃っての朝食を摂っていた。
母との食事は本当に久し振りで、律は少々緊張している。
自分の作った食事は口に合っているだろうか。何か話題は。
律の脳内はパニックを起こしている最中だ。
「節、学校はどう? うまくやってるの?」
母が口を開く。いつもより少し、表情を和らげて。
「うん、凄く楽しい」
「そう、ならいいわ。音はどう? しっかりやってるの?」
「一応」
「部活も良いけれど、勉強を厳かにしないようになさい」
「分かってるよ」
そこで会話は終了だった。律まで回っては来ない。
寂しげな律をどうにか会話に入れようと、節は律に話を振る。
「お姉ちゃん、彼氏いるんだよね!」
そのさりなげない節の言葉に、三人は反応する。