「新入生、ですよね。神光崎学園の」

「おう」

「真空律です。よろしくお願いします」

「相模空……ってアンタ新入生?!」

「はい」

「でかッ! 何センチ?!」

「163センチですが」

「20センチ違う…ッ」


 泣きそうに空と名乗る少年は呟く。

 男子にでかいと言われて泣きそうなのは律も同じだが、女子より小さいとなればかなりの衝撃だろうと憐れむ。


「大丈夫、すぐに伸びますよ」

「……何かムカつく!」

「えっ」

「ぜってぇ卒業までにお前を越してやる!」

「あ、あの」

「覚えとけ!」


 空は律にそう断言すると、一目散に駆けて行った。


 ──―なんて古典的な。

 半ば呆れつつも、律は空と仲良くなれるような気がした。










「くすくす…」


 風の中を走る自転車に乗りながら、律は笑った。


「何だよ、急に。気持ち悪ィ」


 顔の横にある背中から、声が聞こえて来た。

 少女は尚も笑いながら、自転車を漕ぐ少年の問いに答える。


「思い出し笑い」

「はぁ?」

「青いハンカチ、受け取っておけば良かったな」

「何の話だよ」

「分からないなら、内緒」

「変な奴」

「うん。ありがと」

「は?!」


 グラリと自転車が揺れる。

 一瞬、落ちそうになった少女が少年を非難する。


「安全運転!」

「テメェがいきなり気持ち悪ィ事言うからだろーが! 俺は悪くねぇ!」

「ありがとうって言っただけじゃない!」

「それが気持ち悪ィっつってんだよ!」

「気持ち悪い気持ち悪いって、それ彼女に言う科白?!」

「いっ?! か、彼女って!」

「あれ、付き合ってくれって言ったよね?」

「ぅわあぁっ!! 言うな言うな言うなぁぁッ」

「今更恥ずかしがる事?」

「うるせ! もういい、落ちろ!」

「嫌ですー」


 騒がしい自転車が河原沿いの道を走り抜ける。

 少女は、あの時の出逢いに心から感謝した。





*End*