どこから狂ってしまったのだろう。私は至って普通だったはず。

 私に何が起こってしまったのだろう。

 分からない。分からない──。


 全てを承知でプロポーズをした。

 未亡人である事も、4人の子持ちである事も、全てを含めて彼女を受け入れた。また、彼女もそんな私を受け入れてくれた。

 前の主人の事は少しすれば忘れてくれるだろうと踏んでいた。すぐに私を見てくれるだろうと。


 しかし──彼女はそんなに簡単に心変わり出来るような女性ではなかった。


 彼女の遠い目や、深い溜め息の度に、私ではダメなのだという事を思い知らされた。

 そして、彼女の──律への態度も、前の主人の影をちらつかせる要因の一つだった。

 苛立ちもあった。けれども、苛立ちより律への同情の方が大きかった。


 だから、大事に大事に育てたんだ。

 彼女に重なる──あの日までは。


 そう、あの日は前の主人の命日だった。多忙な彼女の代わりに墓参りに行こうと思ったんだ。

 しかし、彼女は仕事の合間に抜け出して来たらしく、私が墓参りした同時刻、霊園にいた。

 手を合わせ、静かに涙を流す彼女の姿は私を狂わせた。

 こんなにも愛しているのに、彼女の心は向かない。まだ、前の主人に向いている。


 行き場のない想いは、形を変えていった。


 墓参りを忘れて家に戻った私を迎えたのは、私を実父のように慕う愛娘だった。

 いつものように笑む愛娘が、彼女と重なった。

 願望からなのか分からない。

 ただ、愛しかった。

 何度彼女の名を呼んだか分からない。覚えているのは、誰かのの泣く声と抵抗。


 ──大丈夫、私が守ってあげる。誰にも渡さない。


 君は、永遠に私のものだ。





*End*