「何があっても必ず生きると誓って下さい。約束…して下さい…っ」

「はい、必ず」


 誠意を込めて頷く蒼を見て、奏の我慢の枷は外れた。


「あ…おぃ…!」

「姫!」


 どちらからだったのかは分からない。お互い、引かれ合うかのようにして抱き合った。

 それはとても綺麗で、儚いシーン。


「お願い、死なないで…!」

「貴女を置いて逝けません!」

「蒼ぃ…っ」


(どうして離れ離れにならなくてはならないの?)


 律はいつの間にか、もらい泣きしていた。

 本やテレビとは違う、現実に目の前で起こっている事。これが夢であればいいと、律は思った。

 こんなに悲しい恋があっていいのだろうか。想い合っていながらも、結ばれない。こんな恋って。


「行ってらっしゃい、蒼」

「行ってきます」


 二人は名残惜しむかのように離れ、蒼は馬に乗る。

 奏は未だに泣き続けている。けれども、決して涙を拭おうとはしない。

 まっすぐに蒼を見つめている。

 まるで、蒼の姿を目に焼きつけるように。

 そんな奏の姿に、律は悟った。奏の命が、そう長くはない事を。

 多分、蒼が帰って来るまで生きてはいられない。だからこそ、大好きな人の姿をこの目に焼きつける。


「姫。一つだけいいですか?」


 馬に乗った蒼が、発つ前に尋ねた。奏はそれに応じる。


「私は父と母が不仲の為に、物心ついた頃には“笑う”という事がなくなっていました。もう一生、笑う事はないと思って生きて来ました」


 それは──蒼が語る、昔話。


「けれど貴女に出逢い、笑う事を思い出しました。その時から私は、どんな事があろうと貴女に仕えて行こうと心に決め、誓って来たのです」

「蒼…」

「貴女に出逢えた事が、私の人生の中で一番の幸でした。ありがとうございます、姫」

「私だって、」