その一言で、奏は安心したようだ。表情に強張りはもう見られない。

 それほど、蒼の存在は奏にとって大きなものなのだろう。

 ふと、空は思う。自分は律にとって、そんな存在になれているだろうか。

 つらい時には傍にいてやったり、不安そうな時には安心させてやったり、そんな事ができているだろうか。

 その疑問に対して、胸を張って大丈夫だと言える自信がない。

 ずっとケンカ友達としてやって来て、傷つけた覚えもある(というより、ありすぎる)ので、尚更の事だ。


「……あぁ、祈りが届いたようね」

「へ?」


 奏は眩しそうに茜空を仰ぐ。優しく、慈しむように。


「相模殿。真空殿の事、幸せにしてあげて下さいね」

「何だ、いきなり」

「ここへ来れて良かった。私の写し身は、幸せになれると知ったから。無駄だとは思わない。蒼との時間が減らされたとしても、真空殿もまた、あちらで得たものがあるはず」

「……戻れる、のか?」

「ええ。相模殿。私の願い、聞き入れてくれますか?」

「幸せにする自信はない。けど、傍にいてどんな事からも守り抜く事なら、誓える」


 空の答えを受け、奏は満足そうに笑んだ。


「それで充分。伊達に蒼の血は引いてないわね。その澄んだ瞳は蒼そっくり。優しくて、誠実な瞳。大丈夫ね、貴方なら」

「おう」


 奏は深く一礼し、律の体から出て行った。

 意識がなくなり、空っぽになった律の体は、バランスを崩し、空の腕の中へと倒れ込む。

 空は溜め息を吐き、律が戻って来るのを待った。










 早朝、馬を連れ、蒼は門の外に立つ。今から戦場へと向かう。

 律は見送りに来ているが、どうも顔を上げられない。

 もしかすると、最後の別れかもしれないというのに、奏は戻って来ない。


 私は、どうすればいい──?


「そう不安そうになさらないで下さい。貴女様の事は、知人に頼んでおりますから。力になってくれるでしょう」


 蒼はいつもの優しい笑顔で律に告げる。