じーっと同じ方向を見つめている。呼びかけても聞く耳を持たない。


「おい、天野」


 これで六回目。今度は腕を掴んで少し引いてみた。

 すると、やっと我に返ったように空の顔を見る。


「相模殿! あれは何?!」


 奏は長い事見入っていたそれを指差す。


「アイスクリーム」

「あいすくりぃむぅ?」

「おやつだよ。冷たくて甘いの」

「それはおいしいの?」

「俺は嫌いだけど……まぁ、うまいらしい」


 それは空から見た律が、アイスクリームをおいしそうに食べていたから。


「ふーん」

「食ってみるか?」

「いいの?!」

「おう」

「ありがとう!」

「はぁ…」


“食べてみたい”──そう、顔に書かれていた。

 ただでさえ金欠だというのに。

 今日一日がとても長かった。気疲れしていて、早く帰りたい。

 茜色に包まれた街並み、いつもと変わらない景色。なのに、何故か物足りない。

 当たり前のようにそこに在ったものが、失くなったような感じ。多分、それは…。


「わぁ、綺麗」


 奏は雑草が生い茂る急な斜面を下り、川を覗き込むようにして座った。

 仕方がないので、とりあえず空も奏に付き合う。

 二人並んで座り、暫くの間、黙り合っていた。

 特に話す事もなかったから。というより、奏が何かを想うように川に見入っていたから。

 やはり故郷が恋しいのだろう。いくら元気に振る舞っていても、寂しいものは寂しい。ましてや、知り合いなんて誰一人いやしない。不安だろう。


「私ね」

「ん?」


 ぼんやりしながら呟くようなか細い声で、奏は口を開いた。