夜中になって床に就いても、律は中々寝つけなかった。

 あれからずっと悩んでいる。しかし、いくら考えてもどうすればいいのか分からない。

 少し外の空気を吸って気分を変えようと襖を開けると、先客がいた。

 ぼーっと月を眺めている。


「蒼さん?」

「律様。……眠れませんか?」

「はい。隣、いいですか」

「どうぞ」


 小袿を汚さぬように気を遣いながら、律は蒼の隣に座る。同じように月を眺めると、蒼が尋ねて来た。


「相模殿とは、どのようなお方なのです?」

「そうですね。蒼さんとは正反対です。口は悪いし、横暴だし、矛盾だらけだし、頑固だし。まるで子どもです」


 堂々と文句を連ねる律に、蒼は小さく笑う。


「でも、何にでも一生懸命で、不器用だけど優しくて、温かくて。本当はまっすぐな人です」

「そうですか。良い人なんですね」

「一応は」


 苦笑して、今度は律が尋ねる。


「姫様はどんな方なんですか?」

「姫は、律様とは対照的です。後先考えずに行動しますし、すぐに機嫌を損ねては私に当たりますし、頑固ですし、あまりにも横暴です」

「相模そっくり」

「ですが情け深く、他人の事をその身になって考える事が出来る一途で優しいお方です」

「蒼さんが好きになるのも分かります」

「そうですか?」


 苦笑し、再び月を見上げる蒼に、律は思わず空と重ねてしまった。あまりにもふとした仕草が似ていて、錯覚してしまう。


「今頃、姫は何をしてらっしゃるのでしょうね。相模殿にご迷惑をおかけしていなければ良いのですが」


 ぽつりと独り言のように呟いた。

 律の反応を待っているのか、それ以上何も言わず、月を眺め続ける。


「大丈夫ですよ」


 律の言葉に納得したのか、していないのか、蒼はただまっすぐに月を見つめていた。