意識の中に
重たい色が流れ込んできて
棗は顔をしかめた。

悲しい青、不安の黒、嫉妬の赤。

棗は無意識に頭を左右に振って
それを拒絶しようとする。

人の話し声が遠くに聞こえて
棗はその目を開けた。
白いカーテン、白い天井。
自分が保健室にいたことを
思い出す。

「先生、わたし自信がないです。
誰かに話しかけようとしても
ちっともうまくいかないし」

「沼淵さん、元気を出して」

「わたしなんていてもいなくても
同じなんです…グス」

女生徒の声が
泣き声に変わったところで、
ベッドを覆っていたカーテンが
勢いよく開いた。

「うるさい」

女生徒はその冷たい声に
ビクッとして顔を上げた。

「あら、西園寺さん。
起こしちゃったかしら」

蘭はのんびりとした口調で言う。
棗のこの調子に蘭は
もう慣れていて気にならない。

棗は無言で起き上がり
保健室の出入口へと歩いて行く。

「あ、あの、スミマセン」

女生徒が声をかけてきたので
棗は足をとめた。