作られたような笑顔の男の頬を
棗は容赦なく叩いた。

パシンと音が室内に響く。
男は頬を押さえてよろめいた。

「…って~~~(この女っ!
俺の顔を二度も叩くなんて…)」

すっかり笑顔の消えた男は
鋭い視線を棗に向ける。
棗はベッドに腰掛けたまま
放心した状態の校医に
駆け寄った。

先生、と声をかけたが
校医は魂が抜けたように
ぼんやりと遠くを見ている。

その目はトロンとしていた。

「櫻井先生」

その身体を揺すると
ようやくハッとしたように
棗と目を合わせた。

「あら?わたし…」

校医が気付いたのを見て
男は舌打ちし保健室を後にする。
それを横目で認めつつ
棗は改めて校医の方を見た。

校医の櫻井蘭(サクライラン)は
自分がなぜベッドの上にいるのか
分からない様子で
辺りを見回している。

「嫌だわ、ぼーっとして。
西園寺さん??久しぶりね、
あなた学校に来てたの?」

「…えぇ、まぁいろんな事情で」

棗は曖昧に返事を返した。

「おかしいわね、さっきまで
生徒会長の高槻君がいただけど」