授業中の廊下は
ひと気もなく静かだった。

長い廊下は日が当たり
心地よい風が開いた窓から
入り込んでくる。

棗は重たく鈍い痛みを
繰り返す頭に手をやった。

吐き気がすると教室を出たものの
朝はメイドの入れた紅茶に
軽く口をつけた程度だから
気持ちの悪さだけが
ずっと続いている。


母に言われなければ
学校になど来なかった…。


考えても無駄なことだと
わかっているが
何度目かになる思いを
頭に巡らせる。

人の感情の色は棗の意思に
関係なく心に入り込んできた。
人が多ければ色も多くなる。
成長するにつれ
はっきり見えるようになる色は
雑音の中で生活しているような
感覚で棗を疲れさせた。

自然と人の多いところは
避けるようになった。
必要最低限の人にしか会わずに
暮らしても特に問題はなかった。

名門高校の卒業資格だけでも
手に入れるために席だけ置いて
家庭教師をつけ勉強していた。

それなのに突然学校に行けなど
母の気まぐれには
いつも振り回される。


暑くもないのに
変な汗をかきながら
棗は保健室へとたどり着いた。