棗と菖蒲、2人の視線が
クローゼットへと向いた。

菖蒲はクローゼットへ
近づいていく。

「お、お母様。さっきわたしが
入れたものが倒れたのかも」


棗の言葉など
聞こえないかのように
菖蒲は無言で
クローゼットに手をかけた。


「お母様!」


「ひっ」



棗の声とクローゼットを開けた
菖蒲があげた悲鳴とが
ほぼ同時だった。


母は目をむいて固まっている。

クローゼットからは
玲の手だけが見えた。



「…」



しばらくの静寂の後、
菖蒲の手がだらりと
重力に従って下がった。