「…フランス語の暗唱を
していました」

小さくため息をついて答える。


菖蒲はパープルのスーツ上下に
レースの付いたブラウス姿。
仕事から戻ったばかりのようだ。


「まじめに勉強しているようね。
学校にもきちんと行っていると
柊から報告を受けています」


机に広げていた参考書などを
無遠慮に触る母を
棗は怪訝な目で見ていた。

「西園寺家の娘として
名に恥じぬよう努力しても
し足りないくらいです。
そこらの者とは…」

「承知しています」


菖蒲の言葉を遮るように言う。



「そんな雑談をするために
この部屋にわざわざ
来られたのではないでしょう?」


「…また心をよんだの?」