そこには玲が立っていた。


「よく俺がいるってわかったな」

「…ずっとドーベルマンに
吠えられてたでしょ。
マヌケなネズミでも
入ったのかと思ってたわ」

棗は笑いもせずに言い放つ。

「悪かったな、
マヌケなネズミで」


吐き捨てるように言いながら
玲は棗に近づいてくる。



間近に立った玲は
夜風になびく棗の髪を
そっと手に取った。

「犬だけじゃないだろう?
俺が来たとわかったのは」

黒くて細い
柔らかい髪に口づける。



「…」