人の『感情の色』は
集中して詳しく見ると
輪のようになっている。

奥に潜む感情、
普段人に見せている感情、
現在の感情、それらが
層になって重なっている。

奥の心を見るためには
集中することが必要だが、
外側の感情は何もしなくても
見ることができた。
それは目で見ているのか
心で見ているのかわからない。

ただそこら中に色は溢れていた。
その感情が強ければ強いほど
はっきりと遠くからでも
感じることができる。

でもある時、それは自分にしか
見えないことを知った。

周囲はまるで自分の心の中を
のぞかれるかのように感じ
棗を気味悪がり遠ざけた。

それは自分の両親ですら
例外ではなかった。

成長するにつれそれらはより
はっきりと見えるようになった。

そしてどの色がどの感情かも
だんだんと読み取れるように
なってきた。

瞳を開けば周りの景色が
頭に入ってくるのと同じように
人の色が心に入ってくるのも
どうしようもないものだと
思っていたが。

調節する、か。

棗は柊の言葉を
もう一度頭の中で繰り返した。

「お嬢様なら、できますよ」

鏡越しに柊が笑顔をむけてくる。
つられて棗も笑顔を返した。