外に出ると柊が
車のドアを開けて待っていた。

お疲れさまです、お嬢様。
そう言って柊は頭を下げた。

「無理言って悪かったわね」

車に乗り込むと
シートに体を沈める。

「ご体調はいかがですか?」

「寝ればよくなると思う」

慣れない人の中に
長い時間いたせいか
気分が悪かった。

しばらくの沈黙の後
勝手かとは思いましたが、と
柊が話す。

「夜に入っておりました
フランス語の家庭教師を
お断りしておきました」

「…ありがとう」

棗は顔を上げ笑顔を見せた。


柊は西園寺家に仕える執事で
もっとも長いベテランだ。

小さい頃から
何かと世話を焼いてくれ
棗にとっては頼れる存在だった。

棗を理解し、そして
棗の能力のことを知っていても
変わらずに普通に接してくれる
数少ない人だ。

「お母様には黙っていてね、
お説教されると疲れが増すから」

「大丈夫ですよ、奥様が
お戻りまでに起こしに参ります」

柊の優しい穏やかな声が
とても安心できる。
それに柊は
多少自分の立場が悪くなっても
棗をかばってくれる。
学校の事も最後まで
母である菖蒲(あやめ)に
無理をさせるのはよくないと
頼んでくれたようだった。

柊は屋敷の全てを把握している
屋敷には欠かせない人だ。
それをわかっているので菖蒲も
あまり柊に文句は言わない。