毅然として言う伸が、まるで違う
人間のように見える。
「賭けに勝ったんだから、謝ること
じゃないって事でしょ・・」
そんな事、もうどうでもいいのだ。
「そういう事じゃない」
「じゃあどういう事よ!」
胸が苦しい。
この気持がなんなのか分からない。
解放されたい。
「弟みたいなもんって思ってたのに」
裏切った。
彼は裏切ったのだ。
あいつと同じ―・・・
伸は悲しそうな瞳で、美央を見つめ
る。
「弟じゃないよ・・」
深いため息をつくと、伸は掴んでる
手の力を緩めた。
まるで飼い主に叱られた犬のように、
うなだれている。
傷つけてやろうと思ったのに、
実際傷ついている伸を見ると・・
なんで胸が痛い?
美央は複雑な感情を振り払おうとし
た。
「手、離してよ」
この体勢のまま、もし校医が戻って
きたら―・・
考えるだけで恐ろしい。
「好きだって言ったのに」
再び、掴んだ手首に力を入れる。
伸の顔がどんどん近づいてきた。
唇と唇が触れそうになる。
美央は、目をギュっとつぶった。
「やめ・・」
耳たぶを、ざらっとしたものがつたう。
「ぎゃあ!」
耳を舐められたのだ。
「変態!変質者!痴漢!」
「あはは」