「でも、それだけで、あんな化け物にはなんないだろ?大体、その『知恵の実』は何をするつもりなんだ?」
「あいつ等は、僕達と同じ式使いだったんだ。式使いとは、妖と戦うためだけに存在している始末屋。最初は、僕達の敵は妖怪だった。
しかし、今から五年前、妖怪が消えてから、そのバランスが崩れた始めた。内部で、考えの違いが出て来始めたんだ。一方は、『自分達は妖怪退治のためにいる。
妖怪がいなくなったのだから、それぞれ普通の生活をしよう』という者、もう一方は『いつ、また妖怪が出るかは分からない。
存在し続け、人数も増やして戦いに備えよう』と言う者。やがて意見の違いは、二分を招き、それぞれ、式使いの力は封印すべきという『時の風』と、力こそが平和を招くと『知恵の実』をつくった。
しかし、やがて『知恵の実』の目的は、世界支配へと代わり、人体に式を埋め込んだ戦士の研究などをした。そして産まれたのが、あの化け物、『モムンクルス』と、その頭となる式使い『闇使い』なんだ。」

 晶は、昨日の狼に乗った敵の言った事を思い出した。『お前が実験体2‐05が最後に報告した適格者か・・・』あれは、そういう意味だったのだ。あの狼に乗った闇使いは、自分達がモムンクルスにした人間を、物のように扱っているのだ。晶の中に怒りが広がる。

 しかし、それが外に吐き出される事はなかった。ミキが書類を持って戻ってきたのだ。

「入隊用書類持ってきました。」
「ありがとう」

 大樹はミキから書類を受け取ると、晶に書くように勧めた。
 やがて、書き終わると、大樹は書類を受け取った。

「さてと・・・僕は本部にこの書類をファックスしてくるから、みき君、晶君に屋敷の中を案内してあげて。」
「なんで私なんですか?葵さんとか、いるじゃないですか」

 非難がましくミキは言うと、ソファーに腰掛けた。

「まあ、そう嫌がらずに案内してやってよ。仲間なんだしさ。それに、もし、部屋を間違えて君の部屋にでも入られたら嫌だろ?」

 ミキは、深々と溜息をつくと、ソファーから腰を上げた。

「わかりました。案内すればいいんでしょう?」

 大樹は、苦笑いをする。