どうも☆
僕の名前は中川博貴。
職業アイドル。
僕は今病院の個室にいます。

なんで病院の個室にいるのかというと、実はメンバーの慶太が舞台から落ちて怪我しよってん。
やからそのお見舞い。
僕めっちゃ優しいなー♪

「まぁまぁ…ほら!お見舞いに色々持って来たんやで?」

一緒にお見舞いに来ていた拓斗がそう言うと慶太の表情がパアッと明るくなった。
…単純な奴…。

「何持ってきてくれたん?」

「バナナとー…エロ本と…ミニカー♪」

拓斗が全ての品を紙袋から出した。

「…いらんわ」

慶太が呟いた。

「なんでやねん!せっかく持って来たのにッ!」

拓斗が口をとがらしたその時、ノックの音がしてドアが開いたかと思うと、

「すみませーん、安田さんの面会時間そろそろ終わりです」

看護婦さんがそれだけ言ってドアを再び閉めた。

「なぁ今の看護婦さん可愛いなかった?」

拓斗が僕に言う。

「そう?」

あんま顔見てなかったしな…

「声掛けてこよ♪
ほなな、慶太!」

「あ!拓斗待ってやぁ!」

慌てて拓斗を追いかけて病室を出たけど、そこに拓斗の姿はなく。
最悪やっ…。
拓斗のやつ、こんなときだけ素早いな…。
さぁて、僕はどうしよう?
病院の中やからもちろんケータイは使われへんしな。
…外で待つかぁ…
今日天気えぇしね。
僕は広い病院の中庭に出た。

中庭のベンチでポカポカひなたぼっこしてるうちに、拓斗が看護婦さんにフラれて戻ってくるやろ。
そう思いベンチに近づくとベンチに一人の女の子が寝ていた。
白のワンピースに淡いピンクのカーディガンを着ている女の子…。
あまりの綺麗さに妖精かと思った…。

僕は気が付くと僕は何かに引き付けられるようにその子が寝ているベンチに近づいていた。
今日は確かに暖かいけど…
この子随分薄着やな…
寒ないんかな?
僕は着ていたジャケットを脱いでそっと女の子に掛けた。

その瞬間女の子はパチッと目を開いて、僕を見つめた。

「……誰?」

それが僕が初めて聴いた彼女の第一声。
この時は彼女が僕の中であんなにも大きな存在になるだなんて思ってもみなかった。
「あ、ごめん!びっくりさせてもーた?」

その知らない男の子はそう言って私に笑かける。
…誰だろう?
このジャケットもこの人の物なんかな?
ここは、病院?
…私入院してるんだっけ?
もう頭の中がごちゃごちゃして全然整理できない。

「…僕のこと知らん?」

男の子はキラキラした太陽みたいな笑顔を私に向ける。

「知らない…」

「そっか。僕なぁ、中川博貴っていうねん」

「ふぅん…」

「君はなんてゆうの?」

私の、名前…
思い出せない…

「…わからない」

「え?!名前やで?」

「だから、わからない」

「あ!そうゆう病気?
やから入院してんの?」

やっぱり私病院にいるし入院してるんだよね?

「そう…かな?」

「そっかあ…大変やなぁ」

そう言って中川くんは私の手を握った。
ドクン…ドクン…
なにこれ…なんて表せばいいんだろう?
私の知らない、今までにない感情…

「あ!拓斗からメール…じゃあ頑張ってな!またお見舞い来るから!!」

中川くんは力強く言う。

「あ…コレ」

ジャケットを渡す。

「ほなね」

中川君はジャケットを受け取り私に手を振り、去っていった。
彼は何者なんやろう?
そしてあたしは、誰なんやろう?
━次のオフの日━
僕は病院に向かっていた。
~♪~♪~♪~
病院に向かうバスの中僕のケータイが鳴った。
「もしもし?」

『お前今日オフやろ?メシ行こうや』

電話の相手は中居くん。

「ちょっと行くとこあって…」

『どこ?』

「病院です」

『何?お前どっか悪いんか?』

「ちゃいますけど…見舞いに」

『慶太ならええで!アイツの怪我大したことないし』

「いや…慶太やなくて…あ!着いたんで切ります」

僕は電話を切るとそのまま電源も切った。
…あ…
しまった…!
僕は病院の中に入ってから重大なことに気付く。
あの子の名前知らんのにどうやって病室探したらえぇねん…
しょうがないから僕はナースステーションで看護婦さんに聞き込み調査を始めた。

「あの!目くりくりしてて、細くて…記憶喪失の女の子の病室分かりませんか?」

「記憶喪失ですか?」

看護婦さん達は苦笑いする。

「はい!記憶喪失です!」

「申し訳ありませんが、患者さんのことをむやみにお教えできないんですよ」

看護婦さんはスッパリそう言うとさっさと仕事に戻って行ってしまった。
…もうえぇもん!
僕一人で探すもん。
…って…
なんで僕あの子にここまでして会いたいんやろう?
どこや…ここ?
記憶喪失の女の子を探して広い病院を歩き回っていたら迷ったらしい。
グランドピアノが置いてあるだだっ広い部屋に出た。
ピアノには綺麗な花が挿してある花瓶がのっていた。

「…なにしてるんですか?」

背後から声がして僕はびっくりして振り返る。
若い看護婦さんが怪訝そうな顔で僕を見ていた。

「あ、ここどこですか…?」

「ここは患者さんのための多目的ルームです」

「あ…そうなんですか…なんか人探してたら迷ってしまって」

「そうですか」

「あの…なんでお花が置いてあるんですか?」

僕はピアノを指差す。

「…ピアニストの患者さんがいたんです」

看護婦さんは声のトーンを下げて答えた。

「いたってことは…」

「亡くなりました、先週」

「そう…なんや」

「凄かったらしいんですよ、その子。9歳の時にピアノのジュニアコンクールで賞取って。世界を飛び回る天才少女ピアニストやったんですって」

「…何の病気やったんですか?」

「ガンでした。12歳の時に発病して…亡くなるまでずっと病院で過ごしてて…よくこのピアノ弾いてたわ」

…それで花瓶置いてあるんか。
どんな子やったんかな…
「やっと見つけたぁっ♪」

いつものように中庭で本を読んでいたら中川君がやってきた。
ほんまに来たんや…

「ちゃんと僕のこと覚えとる?」

「…中川君」

「よしよし♪
記憶喪失治ったか?」

私は静かに首を横に振る。
相変わらず自分については何も分からないし、思い出せない。
周りの人も誰も教えてくれないし…

「そっかぁ…ってかなほんま探したわ~疲れたぁ~」

そう言いながら中川君はベンチに座る。

「なんでそこまでして私に…」

「会いたかってん…
好きやから」

「…………すき?」

「うん、さっき気付いた。
君が好きやねん」

…私のことを…好き?

「君は?僕のこと嫌い?」

「“好き"ってドキドキしたり…苦しかったり、なんか心があったかくなったりしますか?」

「うん、する」

「じゃあ私は…
中川君のこと好きです」

中川君は何にも言わずにニコッて笑うと私を抱き締めた。