「今度なんかおごれよ、美桜の分も」
「分かってるって~」
志月の買い物に適当に付き合い、適当に服を選んだ後。
俺はその言葉を最後に、早々と電車に飛び乗る。
あれから、1時間半。
30分で済ませるつもりが、かなりのタイムオーバー。
見慣れた路地を、急いですり抜けた。
美桜はもう買い物済ませたかな。
カラン――ッ
ドアを、開けた。
「美桜……?」
キッチンに、美桜の姿はない。
変わりにあるのは、コンロの上に置かれたオレンジ色の鍋。
コトコトと湯気を吐き出しながら僅かに揺れている。
蓋を取ってみると、丸々したハンバーグがふたつ、デミグラスソースと一緒に煮込まれている。
その周りを囲む、じゃがいも、にんじん、ほうれん草、しめじ。
「――…焦げてる」