「そんなことないわ。なかなか時間が合わなかったのは、私のせいなのに」
……ちゃんと会って、お話出来て嬉しかったもの。
耳をすまさないと聞き取れないような小さい声。
風が吹いてしまえば、それで消えてしまう小さな炎のような、声。
耳に、全神経を集中させる。
――それに……あなたの息子さんにも会えて、嬉しかったわ。
ふふっと笑ったソプラノ音の、柔らかくて繊細な……音程。
それは――…
冷たい、凶器みたいな鋭い旋律のようなモノに聞こえたのは
“籍を入れる”
“結婚”
そんな単語が頭の中をチラついて離れないからだった。