そっかぁ、もう週末だしお客さん多いはずだぁ。



その日は、慌ただしくお客さんが途切れることはなかった。



今日も那抖は来なかったなぁ。


ふと、那抖の現場のほうを見てみる。



「ヘッ!?」



那抖が店のガラスにへばり付いて手を振ってる。


「ちょ!」


あたしは慌てて店の外に出た。



「何やってんのぉー!」


「迎えに来た♪」


「こんなとこにへばり付かないのっ!」

まだへばりついてる那抖をガラスから引っ張りはがした。



「もう終わった?今日は一緒に病院行こうぜ!」


まったく・・・



悪気のない顔でこの人は笑う。


「ねぇ、那抖・・・」

またかわいくない言葉を言いそうになった。


『別に毎日一緒に行かなくてもいいじゃない』って。

そんなことこれっぽっちも思ってないくせに・・・


「ん?どしたぁ?」


「ううん。もう終わる。着替えて来るから待ってて!」

少しだけ勇気を出して素直になってみたかった。




「ほ〜い♪」

那抖が手を挙げながら、あたしの自転車にまたがった。



「先輩、お先にあがらせていただきまーす♪お疲れさまでしたぁ♪」


「うん!吉岡、お疲れ♪」
先輩から意味ありげにニヤニヤしながら見送られた。



先輩の前では余裕を見せておいて、バックヤードに入るとハイスピードでロッカールームに向かった。




ロッカーを開けると鏡の自分が1番ニヤニヤしてることに気付いた。


あぁ・・・
あたしって顔に出やすかったっけ・・・



念入りにリップを塗り、前髪を整えながら那抖のいる店の表へ急いだ。


あぁ、あたしも乙女だったかって再確認した。