「いい紗茅?
 火の元には気をつけてね。
 それから食べる物はカレーとか
 冷凍庫に保存しておいたからチ
 ンして食べてね、
 ええっと、それからぁ・・・」



「ママ、大丈夫だってばぁ」



朝から台所で忙しく動くママを見ながら答えた。



「あんたは一人じゃなんにもでき
 ないんだから。ご飯だけはきち
 んと食べるのよ?」



「はい、はい」



病気の人に言われても、真実味がないですよーだ。



あたしは病院にもらったリストで入院するのにいる物を、確認しながらバッグに詰めていた。



「学校もサボっちゃダメよ?」



「はい、はーい」



ママが嘘つけって顔で見た。



「もう、ちゃんと行くって。単位
 足りなくなったらヤバイもん」



「わかればよろしい」



「ママこそ・・・
 少しずつでも食べてよ?」



「食べてるわよ。
 戻しちゃうけど・・・」



あたしは溜め息をついた。



あの胃なら仕方ないとは思うけど・・・



ママの内臓の写真は、かなり衝撃的だった。



ボコボコと黒くできた腫瘍。

人間の内臓がこんなにも破壊される癌。


恐ろしかった・・・



「ママ心配しないでゆっくり休ん
 でね。
 病院には毎日行くから・・・」



「ありがとう、紗茅・・・」


ママが人一倍淋しがり屋なのは知ってる。



パパが亡くなってから、よく仏間で写真に話しかけながら泣いていた。



色んな目に合っても愛してたんだなぁって思った。



「じゃあ、行こうか」



あたしはパンパンになった荷物を玄関まで運んだ。



「パパ行ってきます。紗茅を
 よろしくお願いしますよ」



ママはそう言って、仏壇の前で手を合わせて、家を後にした。