「もしもしぃ?あっすみません、
 2年C組の長谷川ですが・・・
 あっいつもお世話になっており
 ますぅ。うちの子が気分が悪い
 と早退して来ましてぇ。
 はいっ、はいっすみません。
  では、失礼いたしますぅ」


――ピッ!


とりあえず家に戻り、彼女の組と名字を聞いたあたしは、親を装って学校へ早退の連絡をした。



「これで心配ないっと」


「うっまー!」


「いつもこの手よ♪」


「うっまー!」


「ハハハ、わかったってぇ!
   あっあたし、吉岡紗茅!」



「うん、知ってるよ。
 あたしは長谷川名雪!
   なゆって呼んでね」

「吉岡さん、
 お母さんはお仕事?」


「あたしもさちって
  呼び捨てでいいよ♪
  ママは入院してんの。
     癌なんだぁ・・・」


「えっ・・・・・・・癌?」



「うん、あたしもびっくりした。
 まさか・・・ママがって・・・・・・
 もう長くないらしいんだ・・・」



「だから・・・だから死ぬな
 んて言うなって言ったの?」



「あぁ、それもあるけど・・・
 死ぬ気でやればなんでもできる
 じゃん?
 痛いの嫌だしさぁ・・・・・・」


「ごめんね。何も知らないで
 ・・・・・・あんなこと言って・・・」

名雪が涙ぐんだ。


「も〜!
 なーかーなーいーのっ!」




――ピーッ

白い煙りを勢いよくあげて、ケトルのお湯が沸いた。


この家にお客さんが来るのは久しぶりだ。


――コポコポコポッ・・・・・・

かわいい猫のカップを二つ並べてコーヒーを作った。


「あたしね、淋しくなったり、
 悲しくなったらホットコーヒー
 飲むの。
 なんか心まであったかくなる。
 いつもはアイスコーヒー派なん
 だけどね。砂糖はいくつ?」




「三つ!甘党なの」

名雪が目を擦りながら、可愛く微笑む。


砂糖三つとミルクをたっぷりを入れて渡した。



「あたしも甘党だよ♪
 砂糖三つは入れないけどね」



珈琲の香りが部屋中に広がった。