エレベーターの前に着くと、もう一度『↓』のボタンを押した。


「なぁ、
 毎日この時間に来てんの?」


「うん。も少し早いかな」

「俺はいつも仕事終わって直で来てるからなぁ」


「え?あの恰好で?」


「ん?」


「いや、なんでもない、なんでもない」


――チンッ!

ちょうどいいところにエレベーターがやってきた。


『1』のボタンをぽんっと押す。



「昼間 ・・・悪かったな・・・」


「え・・・?」


「うるさい、オッサンどもがさ」


「あぁ、面白かったよ?久々に笑ったし」


「そっか?ならよかった。あれからおでんの取り合いだったんだぜ!」


「そうなの?」


「マジ、マジ!おやっさんがムキんなって『この若返りのエキス入りおでんはオレんだぁ!手を出すんじゃねー!』って、もう笑いすぎて腹痛かった!」


「あはは!何それー!」


「オレ、おやっさんがよそ見した隙にちくわ食ってやった♪」


「え〜っ?」


「うまかったなぁ、若いエッキッスッ♪」


「やだぁ!変態!」


「イヒヒ♪」

また鼻の下を擦りながら笑った。



この人の癖なんだなぁ。

なんだか・・・かわいい。




――チンッ!

一階に着き、エレベーターのドアが開いた。



守衛室ではおじさんが、お腹いっぱいで幸せそうな顔をして爪楊枝をくわえていた。



「おじさん、さよーなら♪」


「おぅっ、気をつけてな!」


「お疲れーっす!」


守衛のおじさんが、何か言いたさそうな顔をしてあたし達を見送った。