「先生も看病を?」



「あんな辛いことないでしゅね
 あれから私は
 タバコをやめました・・・」



「そうなんだ・・・」



「吉岡しゃん、
 進路は決まりましたか?」




「うーん・・・
 考えてることはあるけど、
 夢のまた夢かなぁ、みたいな」




「夢を追いかけることは
 いいことでしゅよ?
 若い頃しかできましぇん。
 歳を取るとなかなかねぇ」



「先生は
 先生になりたかったの?」



「ましゃかぁ!」



「違うのー?」



「しぇんしぇーは野球しぇんしゅ
 になりたかったんでしゅよぉ」




島崎が、ボールを投げるところを想像してみた。



かまきりが、かまを動かすような感じが頭に浮かんで、なんだか笑えた。



「先生は、先生でよかったよ」



「はい、今はとてもよかったと
 思ってましゅよ。
 みなしゃんに会えたから」



「あはは♪先生くっさぁー!」



「子供はかわいいでしゅよ。
 特にあなたのような
 やんちゃな子供はねぇ」

先生が初めてこちらを向いて、ニヤッとした。



あたしが素直に話しをできたのは、この先生だけかもしれない。



自分と生徒の差を見せ付けず、同じ位置に立って話しをしてくれる。



叱るばかりが、教師の仕事じゃない。



あたし達は、同じ目線に立って見てほしいだけなんだ。



「もう、大丈夫でしゅか?何かあ
 ったら力になりましゅからね」




「うん、大丈夫だよ、先生」




「そうでしゅか。
 それは安心しましゅた」


「じゃあ、帰るね」



「はい、気をつけて」



あたしはドアの手前で、ポケットに入っていたのにふと気付き、オレンジ色のボールを振り向き先生に投げた。


「先生っ♪」

オレンジのボールがカーブを描く。


「ナイスボール♪」

先生が笑顔でボールを受け取った。



「先生、さんきゅっ♪」



あたしは、初めて教師と名のつく人に素直にそう言えた。