――泣くな――




あたしは、ずっとそう自分に厳しく言い聞かせてきた。




お願い、那抖。早く・・・

早く来て。




病室に入ると、何やらわからない機械が置かれ、酸素マスクが着けられていた。



「・・・ママ?・・・ママ!」
あたしがベッドに駆け寄り声をかけても、なんの反応もなかった。




あたしはただ立ったまま、看護婦さんがロボットのようにてきぱきとこなす仕事を見ていた。




「看護婦さん・・・
 ママの容態は?」




あたしをちらりと見た看護婦さんが言った。




「今日が峠だそうよ。
 話しかければ聞こえてるはず
 だから話しかけてあげて。
    また後で見に来ます」



そう言って、看護婦さんは部屋を出て行った。




いまさら何を言えって?




さよなら?ありがとう?




椅子に座り、ママの手をぎゅっと握りしめた。




「ママまだ逝かないでよ・・・
 あたしをおいてかないで・・・」




ママが、あたしの手を握り返してくれることを期待していたけど、動かなかった。




「紗茅!」




那抖が泣きそうな顔をして入ってきた。




「・・・那抖
 もうママ、駄目みたい・・・」




「おい!おばさんが!」




涙を拭いながらママの顔を見ると、ママの目尻から涙の流れているのがわかった。




「ママ?
 ママ!わかるの?ママ!」



動かなかったけど、聞こえてたんだ。




「ママ、ごめんね!


 嘘ついててごめんね!


 うわぁぁぁぁぁぁ!」