「やっぱり、あたし……――」 そう言い掛けた瞬間、男子トイレの扉が開いた。 乾いたスリッパ音がタイルの床に響き、心臓が激しく暴れ出す。 一枚の壁をへだてた向こう側に、誰かがいる。 隣にいる杉崎君は特にうろたえる様子もなく、左右に目を動かしその音に耳を澄ませている。 すると隣の個室の扉を姿の見えない誰かが叩いた。 ≪コンコン……――≫ その音に体がビクリと反応する。