静かすぎる帳の中で、あたしの携帯が間抜けなメロディーを響かせる。


“優心”と表示されているそれを見て、無視を決め込もうかと思ったものの、着信音が鳴り止む気配はない。


出なければ後で文句がうるさいし、なんて息を吐き、通話ボタンに指を乗せた。



『なぁ、今どこにいる?
俺んちなら、悪ぃんだけど9時からのドラマ録画しといてくんない?』


何も答えず沈黙を貫いていると、



『…アンナ?』


怪訝そうな声色で呼ばれた名前。


優心の声を聞いていると、何故だかまた涙腺が緩んでくる。


それが電話口の向こうまで漏れないようにと努めたのに、



『何だよ、どうかしたか?』


珍しく真剣そうな声で問われ、あたしは嗚咽を混じらせた。



「ごめん、優心。」


『は?』


「あたし今、アンタんとこ行く気になれないし。」


『………』


「てか、ミツとヤッたし、アイツもうすぐカノジョと別れるっぽいから。」


どうしてこんなことを言っているのだろう。


けれどもうこれ以上、半端な気持ちで優心を利用することなんて出来ないから。



『あぁ、そりゃオメデト。』


彼は吐き捨てるように棒読みで言う。



『良かったじゃん、ならお幸せに。』