「ごめん、アンナ。」


ごめん、ごめん、とミツは繰り返す。


あたしは軋んだ体を起こし、目を逸らした。



「別に良いよ。
合意の上なんだし、気にしないで。」


いつもなら、もっと言葉を選ぶのに。


またとないチャンスなんだし、ここでミツを上手く言いくるめ、あの女と別れさせるように持っていくことだって出来たはずだ。


なのに、乾いた笑い以外に出てこない。


あたしはやっとカノジョと同じ位置につけたのに、どうしてこうも悲しいのか。



「忘れてくれ、頼むよ。」


ミツはそう言った。


割り切って、お互いまた明日から何事もなかったように振る舞おう、ということなのか。


じゃああたしには望みなんてなんてないじゃん。



「アンナには悪いけど、俺、ヤケになってどうかしてた。」


ねぇ、あたしはアンタにとって、何?


そう聞きたかったのに、口を開くほどの余力はなかった。


ミツってこういう男だったっけ。



「もう良いって言ってんじゃん。」


突き放すように言うと、最後にまたごめん、と呟いた彼は、部屋を出て行った。


これからあの女のところに行くのだろうか。


あたしを抱いた手で、他の人に触れるのだろうか。


寒さと痛みの中で体が震え始め、気付けば大粒の涙が溢れていた。