ぎしぎしと軋むベッドの音と、微かに漏れる女の喘ぎ声。


一気に体が弛緩し、けれど呼吸さえもままならない。


本当は心のどこかで、ミツには性欲なんてものはないんじゃないかと思っていたし、セックスとは無縁の男なんだと思い込もうとしていた。


けど、でも、これが現実。


結局は、彼の虚像を見ようとばかりしていたのは、あたしも同じだったということだ。


想像が頭の中に勝手に流れ込んでくる。


考えたくもないのに、ミツがあの女に触れて、愛している姿がぐるぐるとまわるばかり。


もう吐きそうだ。


気付けば部屋を飛び出し、先ほどは気付かなかった玄関先に脱ぎ捨てられている女物の靴を踏み付けて、その場から逃げ出していた。


酒と醜い感情が胃の奥から昇ってくる。


堪らず全てを吐き出すと、生理的な涙が溢れた。


とにかくもっと遠くに行かなくては、という衝動に背中を押され、またタクシーを拾う。


こういう時に告げる住所は、いつも決まってひとつだった。


優心に縋らなければ、もうあたしは壊れてしまう。


タクシーの車内でミツからの電話が鳴った。


きっと電気を点けっ放しで家を飛び出したから、あたしが一旦帰ったことに気付いたのだろうけど。


でも今は、出れば何を口走ってしまうかもわからず、初めてそのコールを無視した。


優心の部屋に着き、貰った鍵で部屋に入ってから、うずくまるようにしてまた泣いた。


悔しくて、悔しくて、悔しくて。


いっそあんな女なんか死んでくれたら、とばかり思ってしまう。