本当に、嫌になる男。


それでも制止しているみたいな彼の手を振りほどき、身支度を整えてからあたしは、優心のマンションを後にした。


火照った肌に、11月の風は冷たすぎる。


コートの前を固く閉じ、大通りに出てタクシーを拾ってから、言い慣れた住所を告げた。


車で15分ほど走ると見える、今のあたしが暮らす場所。


到着したのは、ごくごく平凡なアパートだ。


タクシーを降り、階段を昇って手前から3つ目の扉を開けると、すでにそこには人の気配がある。



「あぁ、おかえり。」


この笑顔が、ただ愛しい。



「ミツ、帰るの早かったんだね。」


「まぁ、最近は定時で仕事終われるからさ。」


「じゃあ、急いでご飯作るよ。」


荷物なんて放り投げ、あたしはキッチンへと急いだ。


ミツはあたしの同居人。


平たく言えばルームシェアってやつで、別に恋人なんて甘い間柄ではないけれど。


でも、あたし達はそれなりに上手くやっていると思う。



「つか、アンナこそ今日遅かったし、仕事大変なんじゃない?」


「そうでもないよ。」


「んじゃあ、実はカレシと会ってました、とか?」


茶化すように言われ、いつも恋心なんて簡単に打ち砕かれる。


ミツの屈託ない笑顔が憎い。