「今日、仕事終わったら、家で待ってるよ。」


「あたし明日仕事だし、行く気ないから。」


「でもお前は来るだろ?」


「何それ、行かないって言ってんだし、勝手に待ってれば。」


そう言って、優心の手を振り払った。



「てか、後輩の指名客にちょっかい出してて良いわけ?」


睨んだのに、今度は腹を抱えて笑われた。


まるでそれすら痛くも痒くもないことのような顔で、彼は手をひらひらとさせて、フロアに去っていく。


嫌な男だ。


あたしはため息をひとつ吐き出し、トイレでお化粧を直してから、卓に戻った。



「どうかした?」


友人は憮然としているあたしに首を傾ける。



「別に何もないけど。」


と、言った時、別の卓からきゃーっと黄色い声が上がった。


優心が座ってるだけで、そこはまるで別世界。


耳触りだと思いながらも酒を流していると、



「やっぱ優心はレベルが違うってゆーか、あたし間違っても指名なんて出来ないよ。」


「だよねぇ、あぁいう人のカノジョとかも、きっとすごいんだろうけど。」


「優心ってさぁ、高級車乗り回してて、広い家で年中バスローブ着てるイメージ!」


いや、アイツは密かにドラクエとかやってる普通のヤツなんだけどね。


とは、さすがのあたしも言えるわけなんてない。


どうして人はこう、虚像なんかに憧れるのか。