―――良かった、いた。――――



不意に後ろから声が聞こえ、振り向く。

そこに息を切らせて立っていたのは、同じクラスの松阪 和彦だった。

「よっ」

「和彦くん・・・どうしてここに?」


和彦は呆れた顔で言った。


「璃音ちゃんがいないからに決まってんじゃん」


ここにいた。

私が居ない事に気付いて、心配してくれる人が―――――。



「璃音ちゃんがサボるなんてめっずらしいなぁ!」

和彦は私の隣に立つ。

「ちょっと、うたた寝しちゃって」

恥ずかしながら、俯く。

すると、隣から笑い声が聞こえた。


「璃音ちゃんらしいなぁ」

この無邪気な顔を見ていると、知らず知らず癒されてしまう。


「心配して、わざわざ来てくれたんだね。ありがとう」


和彦君の頬がポッと赤くなった気がした。


「どうしたの?」

私が覗き込むと、和彦君は慌てだす。

「あっ、いや、なんでもない!ど、どういたしましてっ」


急に様子がおかしくなった和彦君。

どうしたんだろ。

「じゃ、じゃあね!」

和彦君はそそくさにどこかへ行ってしまった。




    *      *      *




『ありがとう』

今もなお走っている俺の頭のなかでは、さっきの映像が繰り返し流されている。


はぁーーーっ・・・・ビビった!

璃音ちゃんの隣にいるだけで緊張してんのに、感謝されるなんて思ってなかったからな。

しかも、あん時の璃音ちゃんめちゃくちゃ可愛かった・・・・

あぁ~~・・・

さっきの俺の態度で気付かれたかも・・・

俺が璃音ちゃんの事好きだってこと。



野球ばっかしてた俺の初恋。

ぜってぇ、叶えてーんだ!



俺は彼女の事、何も知らない。

彼女が普通の子と違うってことも。

そして、今日から彼女の人生が狂いだすことも――――。