「今だから言うんだよ。祠稀が、お父さんとお兄さんを嫌ってるのは知ってる。でも、お母さんは違う。お母さんのこと、悪くなんて言ってなかったもん」
……ああ、そうだ。
祠稀はただ、大人しいタイプだからって。それしか言わなかった。
「……そうかもしれないけど。恨んでないかもしれないけど。祠稀は、愛されたとは思ってないよ……。祠稀は、愛を知らないんだ」
その時、チカの携帯が鳴った。
話は途中で途切れ、チカは「ちょっとごめんね」と言って、電話に出る。
……愛を知らない、か……。
祠稀は、自分の境遇をどう思ってるんだろう。
きっと同情だけはされたくないんだろうけど……でも、お母さんの話は別だ。
言ったほうがいい。俺は、凪と同じように思っていた。