「今年の春くらいかな。義父と喧嘩して、足を怪我しちゃったから病院に行ったんだ。たまたま日向って表札を見つけて。気になって覗いてみたら、祠稀そっくりの女の人が、床に臥せてた」


……祠稀のお母さんが、入院してる?


「すごく美人なんだよ。それで覗いてたのがバレちゃって、慌ててドアを閉めようとしたら、話し相手になってくれって言われて。その日からずっと通ってる」

「チカが祠稀の知り合いって、お母さんは知ってるの?」


凪が聞くとチカは頷いて、短くなった煙草を灰皿に押しつけた。


「祠稀は、僕とお母さんが顔見知りなのは知らないけどね。……入院してることも知らないんだ。祠稀は、高校に入る前に家を出たきりだから」

「……言わないの?」


それとも、言えないの?


チカは少しだけ目を伏せて、困ったように苦笑する。


「言わないでって、お願いされてる。祠稀が虐待されてる時、何もできなかったから……今さら会いたくはないだろうって。このまま、死ぬのが1番いいんだってさ」


さらりと紡がれた言葉に、違和感を覚える。