「なんで分かったの? 確かに僕、病院に通ってるけど」
「……どっか悪いの?」
さっきまで冗談に付き合っていた凪が心配そうにチカの顔を覗くけど、本人は首を振る。
「僕じゃないよ。お見舞いに行ってるんだ。ほぼ毎日」
……初めて会った時も、今日校門で会った時も、チカから香っていたのは、香水じゃなかった。
煙草の香りに混じる、微かな薬品の香り。俺はずっとそれが不思議だった。
今日の話を聞いて、父親から受けた傷を治療しに行ってるのかと思ったけれど、違うみたいだし……。
「お見舞いって、誰の?」
本当に、ただ疑問に思って聞いただけなのに。チカから返ってきた言葉は想像の範囲を超えていた。
「祠稀のお母さんだよ」
「……、祠稀の?」
なんで? 凪は、そう言いたそうだった。
チカは煙草の灰を落としながら、「言うか言わないか、悩んでたけど」と付け足し、話し始める。