「祠稀、学校でふたりの男をボコボコにしたでしょ? わけも言わず、一方的に殴ったみたいだけど……怖かった? 祠稀のこと、嫌いになった?」
チカの笑みは、あたしたちを嗤っているのか。それとも自らを嗤っているのか。
分からないけど、威光がどんなグループかを知ったあとでは、答えはひとつのように思えた。
「彼らね、あの街で男を相手に、女の子を売る約束をしてたんだ。前金制で、ほとんどは女の子を紹介しないまま金だけもらって、さようなら」
まさか、そんな……。
「殴られただけで済んで儲けもんだと僕は思うけど、彗の話を聞いて納得したよ。普段の祠稀なら、そんな感情任せなことしないから」
祠稀……。
理由が、ちゃんとあったのに……どうしてあたしはあの時、引っぱたいちゃったんだろう。
「……俺のせい?」
泣きだすようにぽつりと零したのは彗だった。
「普段の祠稀なら、そんな感情任せなことしないって……俺があの夜、祠稀の前に現れてから、躍起になったってこと?」
「……彗のせいじゃない。きっかけではあったけど……原因は、僕だ」
そう言うチカの声が、微かに震えていた。