「ドラッグの売人にさせられそうになった。逆援交もさせられそうになったし、親父狩りって言うの? そういうのも、させられそうになったよ。
僕はね、駒だったんだ。大人たちは自分の欲のために使える駒を探してたから、僕に優しくしてくれたんだ。家でもストレス発散に使われて、やっと見つけたと思った居場所でも……」
かける言葉が、見つからない。
あたしが平凡に生きてた中で、チカみたいな子はどれだけいるんだろう。
きっと、絶対、あたしが想像できた何倍もチカは苦しんだはずなのに。
顔を上げたチカは、どうして笑ってるんだろう。
「そのたび、もうあの街には行かないと思って家に帰るんだけど、耐えられなくて、やっぱり戻っちゃったんだ。額から、血を流したまま」
「……っ!」
パサッと、チカが初めてフードを取った。
想像通りと言うべきか。男の子にしては、かわいい顔をしていた。
くせのない髪は細くしなやかで、一見黒髪に見えるそれは祠稀のように光の当たる部分だけ色を変え、黒紫に染まっている。
だけどそんなことよりも、あたしから見て左側。チカの額の端に、痛々しい傷痕がくっきりと残っていた。
故意に受けたんだと思ってしまうくらい、無防備な切り傷。
幼い顔にはあまりにも不釣り合いな傷が、チカの額にはあった。