「僕はね、小さい頃に両親が離婚して、母親に育てられたんだ」

「……」

「小6の時かな。母親がね、新しい父親を連れてきたの。背が高くて、筋肉もついてて、男らしい人。普通のサラリーマンなんだけど、生活が苦しかったから、よかったって思った。本当にふつうの人なんだよ? でもひとつだけ、ダメなところがあったんだ」


あたしと彗を交互に見て、ふふっと笑うチカは、何がおかしいんだろう。


「とっても酒好きでね、酒豪って言うの? それとも酒乱? ……アル中って言ったほうがいいのかな」


どうしてあたしは、もうすぐ発せられる言葉を、想像してしまうんだろう。


「僕ね、虐待受けてるの。小6の時から」


ああ……ほら。くすくす笑うチカが、どうしたって、祠稀と重なる。


「母親はね、最初は見て見ぬふりだったんだ。でも、前の生活に戻りたくないんだろうね。僕が中学に入った頃には、義父と同じ化け物になってた」

「……チカ……」


どうして名前を呼んでしまったのか分からない。でも、呼ばずにはいられなかった。


そんなあたしに、チカは少しだけ口の端を上げるだけで、再び話し始める。