「……意地でも、祠稀に聞き出せばよかったかな」
「まさか。そんなことしたって、無駄に決まってるでしょ」
意地悪く笑う大雅に腹を立てないで済んだのは、あたし自身もそう思ってるから。
……知りたかった。祠稀の何もかもを。
はぐらかされても、突き放されても、何度でも聞こうと思った矢先、昨日の暴力沙汰。
知りたいという欲求の前に、ためらいが立ちはだかった。
知りたい。そう思うのに、昨日の別人のような祠稀を見て、躊躇した。恐怖ではなく、悲しみのせいで。
あの、一方的に殴る祠稀を見た時。祠稀を取り巻く何かが、とても深く、暗いものだと感じた。
虐待されていたと笑って話した祠稀の過去は今も根強く、祠稀を縛っているんだろうかと思った。
そう考えたらとても悲しくて。祠稀のような経験のないあたしが、何を言っても伝わらないんじゃないかと思えた。
その悲しみが、枷のように体中を縛って、あたしは身動きが取れずにいた。