――…


「……うん。大丈夫だから……なんともないよ」


夕方、あたしたちはマンションに帰った。夜8時になっても、祠稀は部屋から出てこない。


あたしたちが一緒に住んでることを知っている先生たちは、4人の保護者として通ってる凪のお父さん、颯輔さんに連絡を入れていた。


ついさっき、颯輔さんから凪に電話が入り、凪は眉を下げて「大丈夫だから」と繰り返している。


もしかしたら、こちらに来ようとしているのかもしれない。


「……うん。うん……じゃあね」

「颯輔さん、なんだって?」


凪が電話を切ると、彗が問いかける。凪は携帯を閉じて、肩をすくめた。


「別に。いつもと変わらない過保護っぷり。祠稀に代わってとか、できるわけないじゃんね」


そう凪が言うと、彗もあたしも、祠稀の閉ざされた部屋を見つめる。


あの後すぐ、祠稀は処分が決まって家に帰されたけど、あたしたちが帰ってきても、ドアをノックしても、反応はなかった。


祠稀は、あたしたちを拒絶している。


……いったい何があったんだろう。あそこまで荒れて、何もなかったわけがない。


でもそれを、この場にいる誰もが口にしなかった。


今、祠稀に何か言ったところで、何も聞けないこと、何も話してくれないことが、分かっていた。