「祠稀! やめなさいってば!」


凪の声を耳に入れながら生徒たちをかき分けて、目の前で起こる光景に息を呑んだ。思わず、目を逸らしてしまう。


何、今の……嘘。……嘘だよ。


「祠稀!! ……っちょっと! 離してってば!」

「やめたほうがいいって! 危ねぇよ!」


震える手で口を覆ったまま視線を戻すと、凪の腕を近くにいた男子生徒が掴んでいた。


……当たり前だ。あたしだって無関係だったら……無関係じゃなくても、止めてしまう……。


耳に入る鈍い音が、胃のあたりに重く響く。

たった一瞬だけ見た光景が、目に、脳裏に焼きついてしまった。


2対1の喧嘩。


ひとりは冷たい床に横たわっていて、もうひとり、仰向けに倒れている男子生徒の上に、祠稀が馬乗りになっていた。


祠稀が殴った瞬間に見えた、横にぶれた男子生徒の顔は真っ赤だった。


祠稀の手も、床に落ちる滴も。


「やりすぎじゃね……?」


その光景を、誰もが呆然と見ていた。


凪の、泣きそうな声を聞きながら。