ボクの名前は山田邦子。

男なのにこんな名前をつけたクソ親父を何度殺そうと思ったことか…。

実際、寝てる親父の部屋に金属バットを持って入ったことだってある。

でも、その時は親父のぐちゃぐちゃになった脳ミソを想像して止めた。

クソ親父の返り血なんて御免だから。

説明なんていらないと思うけど、この名前のせいでボクはずっといじめられてきた。
馬鹿にされ続けてきた。

当然だと思う。

ボクだって、「山田邦子」って言う男がいたら100%いじるだろうからね。

ボクは現在29歳。

もうすぐ30歳になる。

山田邦子(男)30歳。

どうしようもない
こんなんじゃ身動きがとれない
結婚も就職も出来ない
歯医者にだっていけない


だから、今日、改名手続きをしようと思う。

新しい名前は決めてある。

「山田太郎」

モテる

うん、モテる


区役所に入る。

必要書類に書き込みをする。

旧名:山田邦子
新名:山田太郎

ボクは感慨にひたる
もういじられなくて済むんだ
誰からも名前で注目されない
29年間の苦悩の日々が終わる

ボクは山田太郎だ。


「山田さん、山田邦子さん」
区役所の職員に呼ばれた
「ハイ」
とっさに返事をしたボクを見て、まわりの人が驚いた

こんなのはもう慣れてる。

今日からボクは山田太郎なんだ
関係ない

笑いたい奴は笑えばいい。

ボクは山田太郎だ。

山田邦子じゃねー。

ボクはこうして「山田太郎」になった。

結婚も就職もうまくいった
歯医者も堂々と行けるようになった
息子には山田五郎と名付けた
娘には山田花子と名付けた
誰も名前で苦労しないように心掛けた
男には男の名前があるし
女には女の名前があるんだ
そこさえ押さえておけば万事OKなのさ

ボクは49歳で死んだ
寝てるところを娘と息子に金属バットで殴られ殺された

でも殺された理由が未だにボクはわからない