一瞬で、あたしの怒りに火をついたのがわかった。
この晴れ晴れしい入学式の日に、下らない愚行かましやがって……。
私は眉間による皺を抑えられず。後ろから追いついた沙雪がひくつった顔で「つ、椿……?」と呼ぶのも気づかなかった。

いやいやだめよ、椿。
寸前で消えそうな理性に働きかける。

さっき普通に生きるって決めたばっかじゃないの!
そうよ、高校生にもなって女の子がこんな不穏な場面にしゃしゃり出てくるのはおかしいわ。

「誰か呼んだほうがよくない?」

沙雪の声にハッとした。
そうだ誰か助けを呼ぼう。先生呼んできて、この場を収めればいいんだわ。
ありがとう沙雪、自分を見失うところだったわ。

そうと決まれば急がなきゃ。駆けつけてきた翔君と入れ替わりになり、足に力入れたその時――

「すかしてんじゃねえぞ!」

不良の拳が、イケメンのお腹めがけて繰りだされ、ぷっつん。

「沙雪」

あたしは外した眼鏡を沙雪に押し付け、高く、跳んだ。

不良の、顔面めがけて。